水素の作り方 -その2:水の電気分解
前回の記事では、水素が現在どうやって作られているのか概要に触れました(水素の作り方 -その1:現行の作られ方と価格参照)。再生可能エネルギーを使いながら、水素を作りたい…それに対する解の一つは、水の電気分解(水電解)による水素製造です。高校化学でも水電解は学習するので、知っている方も多いと思います。
今回は、その水電解についてまとめていきます。
水電解の歴史[1-6]
水の電気分解は教科書にも載っているくらいですので、かなり確立された部分が多いものと認識できます。反応式で書くと、以下の通りですね:
2H2O --> 2H2 + O2 …(1)
その最初の科学的な報告は18世紀にまでさかのぼります。1789年、Jan Rudolph Deiman(1752-1837)とAdriaan Paets van Troostwijk(1743-1808)によって報告されました[1]。水溶液に2つの電極を浸し、それらの間に電気を通じることで水を分解し、水素と酸素が発生します。
この水の電気分解反応を酸化・還元反応式(半反応式と呼びます)で表すと、次のようになります。
還元反応@陰極:2 H2O + 2 e- --> H2 + 2 OH- …(2)
酸化反応@陽極: 4 OH- --> O2 + 2 H2O + 4 e- …(3)
図に、水電解の歴史をまとめたものを掲載します。資料[1-6]を参考に作成しています。
アルカリ水電解
20世紀になって工業化された水電解は、アルカリ性の水溶液を用いるアルカリ水電解と呼ばれるものです。この時、式(2)と式(3)であらわされる反応が進行し、水から水素と酸素が生じます。
固体高分子(PEM)形水電解
20世紀の中頃、高分子化学の進展によって、イオンを非常によく通す高分子膜が開発されます。そうした膜のうち、特に水素イオン(プロトン)H+が特に素早く動ける膜が報告されます。その膜を使った水電解装置として、固体高分子(PEM)形水電解の検討が進みました。この装置においては、水素イオンが酸化反応と還元反応を結びつけます。
そのため、反応は以下のように書けます。
還元反応@陰極:2 H+ + 2 e- --> H2 …(4)
酸化反応@陽極: 2 H2O --> O2 + 4 H+ + 4 e- …(5)
固体酸化物形水電解
時を同じくして、酸素イオンが非常によく動けるような酸化物が開発され始めました。それを活用した水電解装置は、固体酸化物形水電解と呼ばれます。これはアルカリやPEM形水電解と異なり、高い温度(一般に、500度以上)が必要となります。というのも、そうした温度にしなければ、酸素イオンの動きが速くならないためです。
水電解装置の概要
ここで取り上げた電解装置のうち、アルカリ水電解とPEM形水電解について、その装置概要を図にまとめておきます。
水電解の基本構成要素として、陰極、陽極、そしてそれらを隔てる膜が存在します。
アルカリ水電解では、隔膜としてイオン交換膜ではなく、多孔質材料が用いられれます。水分子が陰極で還元され(式2)、水素が作られます。そこで副生される水酸化物イオンは、多孔質隔膜を隔てて陽極へ移動し、そこで酸化されます。
一方でPEM形水電解では、関与するイオンと流れの方向が異なります。陽極へ反応物である水が供給され、それが酸化反応によって酸素が作られます。その時に、水素イオンが副生されます。PEMはカチオンを良く通すので、水素イオンは陽極から陰極へ移動します。そこで、水素イオンは還元されることで水素が得られます。
他のポストでは水電解のさらなる詳細(例えば、水電解で作った水素の値段等)についてまとめていく予定です。
参考文献
- R. de Levie, J. Electroanal. Chem. 1999, 476, 92.
- K. Zeng, et al., Prog. Energy Combs. Sci. 2010, 36, 307.
- W. Kreuter et al. Int. J. Hydrogen Energy 1998, 23, 661.
- R. L. LeRoy, Int. J. Hydrogen Energy 1983, 8, 401.
- P. W. T. Lu et al., J. Appl. Electrochem. 1979, 9, 269.
- H. S. Spacil et al., J. Electrochem. Soc. 1969, 116, 1618.
- Ø. Ulleberg, Int. J. Hydrogen Energy 2003, 28, 21.
- M. Carmo et al., Int J. Hydrogen Energy 2013, 38, 4901.