二酸化炭素の再資源化 -その3:二酸化炭素回収価格
二酸化炭素の再資源化シリーズの第3弾です(その1、その2)。今回は、大気中から二酸化炭素を回収する試みについてみていきます。
大気中からの二酸化炭素回収
大気中からの二酸化炭素回収は、英語ではDirect Air Captureと呼ばれ、よくDACと略されます。「回収する」という視点に立つと、二酸化炭素の濃度は非常に小さく見えます。その大気中の濃度はわずか400 ppm程度でした(二酸化炭素の再資源化 -その1:二酸化炭素から何が作れる?参照)。そんな薄いものをかき集めるのは至難の業です。
DACの実現・商用化を目指した企業は存在し、またいくつかは商用化に向けたデモプラントを建設しています。代表的なDACの会社[1-4]とその指標[5]について以下にまとめまておきます。
Carbon engineering[1]:カナダの企業であり、アルカリ溶液を使って吸収させています。現行、1トンのCO2を回収するのにかかるコストは136ドルとあります。
Global Thermostat[2]:アメリカの企業であり、アミンの吸収材を使っています。年間百万トンの二酸化炭素を、1トンあたり10-35ドルで回収できるようです。
Climeworks[3]:スイス企業であり、固体吸収材を用いているようです。
SKYTREE[4]:オランダ企業であり、多孔プラスチックを使って、静電吸着をさせています。
二酸化炭素の回収試算
上述した企業や、各種研究機関での研究開発によって、DAC技術の深化が進んでいます。経済産業省のメタネーション推進官民協議会においてもDACコストについて言及され、
例えば「安くて100 [USD t-1]程度」と日本企業にも認識されているようです[6]。ただし、このコストもまだまだ高いですね。100 [USD t-1]のコストの技術を使って、二酸化炭素を回収することを考えてみましょう。
全世界のCO2排出量は350 [億t]でした(日本における二酸化炭素 -排出量?参照)。この全量を、現時点の技術レベルにあるDACで回収するとすれば、3.5 [兆USD] (= 350 [億t] * 100 [USD t-1])となります。1 [USD] = 110 [JPY]として計算すると、約380 [兆円]となります。とんでもない金額ですね。
日本の場合はどうでしょうか?
日本における二酸化炭素排出量は、2019年の値で12 [億t]でした(日本における二酸化炭素 -排出量?参照)。同じ計算をしてみると、13.2 [兆円] (= 12 [億t] * 100 [USD t-1])* 110 [JPY USD-1]です。日本のGDPは530兆円程度ですので、約2.5%というとんでもない額が必要になります。
二酸化炭素の回収コスト目標値の一例(※DACではない)
上述したコストは「回収」するだけの額であり、実際にはもっとコストがかかります。例えば輸送等ですね。二酸化炭素を埋める場合には、その圧入にも必要がかかります。
DACではなく分離回収を例として、経産省が出している値があります[7]。これは、火力発電と、二酸化炭素回収(CCS)を組み合わせる場合の例です:
- 分離回収、昇圧;約5,300-7,900 [円 t(CO2)-1] ※化学吸収法の価格
- 輸送;約800 [円 g(CO2)-1] ※パイプライン輸送を想定
- 圧入・モニタリング;約2,300 [円 t(CO2)-1] ※帯水層への貯留
→合計で、約8,400-11,000 [円 t(CO2)-1]
このコストをどの程度まで下げるかを考える際に、太陽光発電コストを引き合いに出しています。
- 13 [円 kWh-1]=2019年の太陽光発電平均発電コスト(50-500 kW)とするには、CCSコストは2,000-4,000 [円 t(CO2)-1]
- 15 [円 kWh-1]=2019年の太陽光発電平均コスト(1,000-2,000 kW)とするには、CCSコストは約7,000 [円 t(CO2)-1]
とあります。つまり、前者のケースでコストを1/5に、後者の場合でも20-35%オフ程度にする必要があります。経済的に二酸化炭素を回収するには、まだまだ道のりが長そうですね。
参考文献
- Carbon Engineering, https://carbonengineering.com/
- Global Thermostat, https://globalthermostat.com/
- Climeworks, https://climeworks.com/
- SKYETREE, http://www.skytree.eu/
- Y. Ishimoto, et al., "Putting costs of direct air capture in context", SSRN J 2017.
- 経済産業省 メタネーション推進官民協議会, "第3回メタネーション推進官民協議会 議事録".
- 経済産業省 総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会, "2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討".