水素の作り方 -その3:水の電気分解のコスト
水の電気分解では、”持続可能”な形で水素を作ることができます(水素の作り方 -その1:現行の作られ方と価格参照)。 その歴史と概要(水素の作り方 -その2:水の電気分解参照)について、前回まとめました。今回はもう少し踏み込んで、水電解で作った水素の値段を見ていきます。
水電解装置のスケールメリットとコスト
水素価格を、水素製造能力(電解装置規模)に対してまとめたもの図にまとめます[1]。
水電解では他の工業プロセスと同様に、スケールメリットがある程度働きます。つまり、装置が大きいほどある程度安く作れます。現状最も安い形態で、水素1 [kg]あたり5ドル程度です。これは以前述べた値でもありますね(水素の作り方 -その1:現行の作られ方と価格参照)。
水電解で作られる水素(グリーン水素)に経済性を持たせることを考えます。5ドルの内訳をみてると、なんと赤色で示される4ドル弱、これは電気代に起因します。残りのO&M(Operation & Maintenance)、そしてCAPEX(Capital expenses)はそれぞれ1ドル弱ずつです。つまり、水電解由来のグリーン水素が高い主因は「電気代が高いから」ということになります。
ですから安い電力を使えれば、その分安く作れます。例えば夜間などの余剰電気を使って水電解を操業すれば、安く済みますね。逆に、送電網に接続されていない割高の再エネなどを使うと、水素価格は高くなります[2]。電気代が高いところで作れば、それだけ経済的には不利な水素が製造されてしまいます。一方で、技術革新によって新規水電解システムを構築することで、水素価格の低減を狙った研究開発も進められています。
水素コストの目標値
日本は水素コストの低減を目指し、政府目標を打ち出しています。日本が2017年に打ち出した「水素基本戦略」では、2030年時点で、1 [Nm3]あたり30円[3]を目標として掲げています。そして将来的には20 円程度[3]を目標にしています。日本における現在の水素価格は1 [Nm3]あたり100円程度[4]なので、挑戦的な目標です。なお、ここ政府目標として言及される水素価格は、必ずしも水電解由来に限ったものではありませんので、ご注意ください。
ちなみに、水電解装置そのものについてもコスト目標を掲げています。現行1 [kW]あたり20万円であるものを、2030年には5万円まで下げるとしています[4]。
※水素1 [kg] が、約11 [Nm3]に対応します。
海外でも同様に、クリーンな水素コストの低減を国レベルで目標に掲げています。アメリカでは、2021年7月Hydrogen Shotにて”111”が提案され、10年(=1 decade)で、水素1 [kg]当たりのコストを1ドルにすることを目指しています[5]。
参考文献
- M, Felgenhauer, T. Hamacher, Int. J Hydrogen Energy 2015, 40, 2084.
- E4tech Sàrl with Element Energy Ltd, Development of Water Electrolysis in the European Union Final Report, 2014.
- 再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議, 水素基本戦略, 2017.
- 経済産業省 資源エネルギー庁 新エネルギーシステム課/水素・燃料電池戦略室, “今後の水素政策の検討の進め方について”, 2020.
- U.S. Department of Energy, “Hydrogen Shot”, https://www.energy.gov/eere/fuelcells/hydrogen-shot (accessed on 2022/02/04).