エネルギーを運ぶ:エネルギーキャリアとして水素?

再生可能エネルギーの利用を進める上でのハードルは?

再生可能エネルギーを積極的に使っていく -これは、世界的な潮流ですよね。ではどんどん太陽光発電や風力発電を設置すればよいかというと、そういう訳でもありません!再生可能エネルギーを利用できる場所・時間(エネルギー供給地)と、我々がエネルギーを使う場所(エネルギー需要地)は異なります。需要・供給のずれというのは大きな問題で、発電分が需要を上回る場合、せっかく発電したものを使うことができません。実際に、太陽光発電を積極的に導入している九州では、太陽光発電量が需要を上回っているため、太陽光発電の出力抑制がなされています[1]

上手に再生可能エネルギーを利活用するため、エネルギーキャリアの導入が検討されています(再生可能エネルギーの利用にまつわる問題点参照)。再生可能エネルギーで発電した電力をエネルギーキャリアへ変換し、貯蔵する、もしくは需要地へ輸送するという考えです。エネルギーキャリアは、「より少ない体積、より小さい重量」で、「より多くのエネルギー」を保有できることが好ましいです。

水素が持っているエネルギーはどの程度?

エネルギーキャリアに適した物質はなんでしょう?「元素」に注目して考えると、一番軽いものは、周期表の一番左上に位置する水素ですね。実際、重量当たりのエネルギーで言えば、水素分子はかなり大きいです。

hydrogen-as-energy-carrier

どの程度か、少し計算してみましょう!

エネルギーとして使うとき、我々は酸化反応を用います。酸化反応に伴う発熱分を、我々は利用します(化石燃料から取り出せるエネルギー量は?参照)。水素の燃焼反応は、以下であらわされます。
H2 + 1/2 O2 --> H2O (l) …(1)
※(l)は、H2Oの相が液体である(つまり、氷や蒸気ではなく、水である)ことを意味します。

この反応に伴うエネルギー変化は、285.8 [kJ mol-1]と計算できます。水素分子は、モル質量が2 [g mol-1]なので、水素分子を1 [g]燃やすときに得られるエネルギーは142.9 [kJ](= 285.8 [kJ mol-1] / 2 [g mol-1] * 1 [g])です。4.2 [J]が1 [cal]なので、水素分子1 [g]は34.0 [kcal]に相当することが分かります。

34キロカロリー…これはどの程度でしょうか?

車の燃料でもあるガソリンは、1 [L]あたり7970 [kcal]の発熱量[2]を有し、またその密度は約0.75 [g mL-1]です[2]。重量当たりに換算すると6.0 [kcal g-1] (=7970 [kcal L-1] * 0.75 [g mL-1] / 1000)と分かります。ですので、水素はガソリンの5.7倍もの重量エネルギー密度になります。ちなみに、ごはん普通盛り(140 [g])は、235キロカロリーあるそうです[3]。ということで、水素は重量当たりのエネルギーで言えばかなり大きいことが分かったかと思います。

しかし、水素は我々が生活する条件下では、一般に気体状態です。体積がかなり大きいため、そのままは運びにくい。その体積エネルギー密度をどう小さくするか、ということが課題となります。その解決策として、他のエネルギーキャリアへ転換する、というものがあります。そこで、アンモニアやメチルシクロヘキサン、水素吸蔵合金などが出てきますね。これらについては別のポストで記述します。

参考文献

  1. 九州電力送配電株式会社, “再エネ出力制御について知りたい”, https://www.kyuden.co.jp/td_renewable-energy_purchase_control.html (accessed on 2021/11/01)
  2. 石油連盟, “換算係数一覧”, https://www.paj.gr.jp/statis/kansan/ (accessed on 2021/10/07)
  3. 株式会社 タニタ , “接種カロリー早見表”, https://www.tanita.co.jp/content/calorism/table/index2.html (accessed on 2022/02/03)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。