窒素の循環 -その1:肥料用途のアンモニア製造

アンモニアは人口を支える肥料の原料として、多く製造されています。人口は今後も増大を続け、また新たにエネルギーキャリアとしての用途もあることから、今後アンモニア製造量は増大し続けると考えられます。大気中の窒素を大量に固定した結果、今後地球はどうなるのか。窒素循環という観点から考察するシリーズ記事の第一弾として、まず肥料用途のアンモニア製造の現状についてまとめます。

アンモニアの製造

アンモニア(NH3)は、窒素と水素から製造されています。
N2 + 3 H2 --> 2 NH3 …(1)
現在のアンモニア製造は高温・高圧条件で操業され、用いられる水素は化石資源由来のものです[1]。ですので、色分けによればグレーアンモニアと呼ばれます。

※持続可能な食糧生産のためには、化石資源に依存せず、再生可能エネルギーを使った製造プロセスの確立が望まれます。
こうして製造されるアンモニアは、グリーンアンモニアと呼ばれます。

化成品製造に要するエネルギー量は市場規模と正の相関にあり、最もエネルギー消費量の大きいものがこのアンモニアです。以下に、IEAがまとめた図を掲載します[2]

energy-consumption-market-size-chemicals

アンモニア市場規模は150 [Mt]に迫り、そのエネルギー消費量は約2.5 [EJ]に及びます。EJはエクサジュールで、10の18乗ジュールです。

エネルギーが大きすぎてよく分かりませんね。少し比較しておきます。人間が一日に摂取するカロリーは約2660 [kcal]です[3]。1 [cal] = 4.2 [J]なので、約11 [kJ]ですね。一年を365日として計算すると、健康な成人男性が年間に消費するエネルギーは、約4.0 [MJ]ですね。2.5 [EJ]をこの4.0 [MJ]で割ると、6.2 億となります!2020年時点での地球上の人口が 約78億人(7,794799,000人)[4]ですので、そう考えるとそこまで多くない印象でしょうか。
一方で、世界全体のエネルギー消費量は5*1020 [J]でした(我々はどのくらいエネルギーを消費しているのか?参照)。2.5 [EJ]で割ると、0.005であるので、つまり世界全体のエネルギー消費量のうち0.5%はアンモニア製造に使われている、と分かります。こう見ると、かなりの量のエネルギーがアンモニア製造に使われているとわかるかと思います。

アンモニアの用途

こうして作られるアンモニアの約80%が、人口を支える農業用肥料に使用されています。アンモニア用途については、例えばこのサイト[5]などによくまとまっています。
工業的なアンモニア製造は、20世紀初頭の人口増大を支える役割を果たしています。その方法はFritz HaberとCarl Boschらによって開発され、ハーバー・ボッシュ法と呼ばれます。Fritz Haberは、「元素からのアンモニア合成法の開発」によって1918年のノーベル化学賞を受賞しています。ハーバーボッシュ法については、例えばこのページ[6]などによくまとめられています。

世界人口は増加の一途を辿っているので、アンモニア市場規模およびエネルギー消費量も拡大し続けると予想されますね。

肥料の製造

このように、我々は多くの窒素を固定化し、アンモニアを製造してきました。アンモニアからの肥料製造について、押さえておきます。

アンモニアはオストワルト法によって酸化され、硝酸へと転換されます。
4 NH3 + 5 O2 --> 4 NO + 6 H2O …(2)
2 NO + O2 --> 2 NO2 …(3)
3 NO2 + H2O --> 2 HNO3 + NO …(4)
この硝酸とアンモニアによって、硝酸アンモニウム(硝安)が製造されます。
HNO3 + NH4 --> NH4NO3 …(5)
この硝安が代表的な肥料原料ですね。

その他、二酸化炭素と反応させて尿素も製造されます。
CO2 + 2 NH3 --> (NH2)2CO + H2O …(6)
尿素も同じく、肥料原料ですね。

蛇足ですが、肥料の主な原料は、リン酸アンモニウム、重過リン酸石灰、硝酸系化成肥料などですです。高度化成肥料と呼ばれるものは、窒素・リン・カリの3要素含有量の合計が30%以上の化成肥料を指します[7]。化学操作を施した肥料は輸送、貯蔵、施肥などの労力、手間が少なくて済み、肥料の消費の過半を占めています。日本において必要な肥料量について、田+普通畑+樹園地+牧草地のヘクタール(ha)当たりの化学肥料消費量は、99 [kg(N)] ,114 [kg(P2O5)]と 78 [kg(K2O) ]ほどのようです[8]。肥料の種類は、そのタイミングに応じて、最初に施す元肥と、その後成長を即効性を期待して途中で入れる追肥が一般的なようです。米の場合、元肥に加えて、追肥は二回のようです[9]

続きます…

参考文献

  1. J.G. Chen, et al., Science 2018, 360, eaar6611.
  2. International Energy Agency, Technology Roadmap 2013.
  3. 日本医師会 あなたの健康を応援する健康の森,"健康になる! 1日に必要なカロリー「推定エネルギー必要量」", https://www.med.or.jp/forest/health/eat/01.html (accessed on 2022/02/02)
  4. United Nations, Department of Economic and Social Affairs, Population Division (2019). World Population Prospects 2019, Online Edition. Rev. 1. (accessed and data retrieved on 2022/03/09)
  5. 日本肥料アンモニア協会, アンモニアのご紹介 http://www.jaf.gr.jp/ammonia.html (accessed on 2022/03/08)
  6. Chem-Station, "100年前のノーベル化学賞ーフリッツ・ハーバーー" https://www.chem-station.com/blog/2018/10/nobel100ago.html (accessed on 2022/03/08)
  7. minorasu by BASF, 高度化成肥料とは? 普通化成肥料との違いや施肥量、効果的な使い方を解説! https://minorasu.basf.co.jp/80201 (accessed on 2022/03/09)
  8. M. Nishio, J. Soc. Soil Sci. Nutr. 2002, 73, 219-225.
  9. 農林水産省, 施肥基準及び減肥基準.

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