発電のカーボンニュートラル化 -その2

我々に最も身近なエネルギーは、電力かと思います。現在、主要な発電方式は火力発電です。再エネの積極導入以外に、カーボンニュートラルな発電を実現する方策の一つは、火力発電燃料のカーボンニュートラル化です。今回は、グリーン水素への移行と、アンモニア発電・水素発電についてみていきます。

グリーン水素への移行

カーボンニュートラルなアンモニアの作り方には、大きく2通りあります。

  • グリーン水素を再エネ+水から製造し、窒素と反応させる(水電解水素)。
  • 再エネ+水+窒素から、一段でアンモニアを合成する。

いずれのルートも、工業的なスケールでは行われていません。現在は過渡期であり、2050年を見据えて積極導入が考えられているのは前者の水電解水素経由だと思います。
後者は、さらにその後の技術ですね。アンモニア利用であっても、水素は基軸になります。

このグリーン水素製造が市場に普及するためには、

  • 【製造】安くグリーン水素を製造し、
  • 【輸送】安くグリーン水素を運び
  • 【使用】効率的にグリーン水素を使う

この3つがかみ合う必要があります。それぞれに対して、国レベルで検討が進められています。例えば、安く水素を効率的に製造するための要素技術の開発や、また水素の需要先として水素発電タービン、燃料電池トラック、水素還元製鉄などが検討されています[1]

輸送について検討するときに重要な点は、突然必要な水素すべてをグリーン水素で賄うようになるわけでは無いということです。グリーン水素が市場に導入されるときに、必要なサプライチェーンが構築されている必要があります。そのため、現在はグリーン水素ではなくとも、ブルー水素を用いた検討がされています。ブルー水素というのは、化石資源由来の水素ではあるものの、複製する二酸化炭素を回収・有効利用・貯留(CCUS)したものです。

ブルー水素の導入で必要な視点の一つは、二酸化炭素を再資源化しない場合、どこに貯留するか、という点です。最近の報告によれば、二酸化炭素を再資源化する場合であっても、二酸化炭素を永久に補足するもの(建築用スラグなど)でなければ、炭素中立は難しいのではないかという試算もでています[2]

地下貯留などを考えた時、貯留できる量は土壌環境などによって決定されます。その試算をまとめた報告によれば、世界の二酸化炭素貯留ポテンシャルは次の図のようになっています[3]

CO2-capture-storage-utilization-potential

また経産省の試算によれば、日本においてカーボンニュートラルを達成した時点において、CCUSの貢献度合いは、1年あたり69 億トンとされています[3]。日本の貯留ポテンシャルが1400億トンですので、単純に割ると日本が自国のみで炭素中立を実現しようとした場合に、20年分しか貯留ポテンシャルはありません

アンモニア発電

では次に、アンモニアを燃料として用いた場合の発電についてまとめておきます。Transition Zeroによれば、アンモニア専焼発電の課題は、以下の通りです[4]

  • アンモニアは可燃性が低く
  • 発火温度が高く
  • 炎の速度と温度が低く
  • 可燃性範囲が狭く
  • 放射による熱移動が大きい。

また以前の記事(発電のカーボンニュートラル化 -その1:コスト試算参照)で見たように、燃焼速度が遅い点も特徴的でした。

アンモニアの燃焼速度は0.09 [m s-1]であり、これはメタンの0.37 やプロパンの0.43に比べて小さいですが、水素は、2.91とかなり高いです。

発電のカーボンニュートラル化 -その1:コスト試算

このアンモニア発電ですが、日本は他国に比べて特に注力しています。考えられる理由は、ヨーロッパなどは、水素パイプラインがあってそれを使えるため、アンモニアにする利点がないことなどです。

将来的に、他国でアンモニア発電が導入されるかどうかは、日本にとって大変重要な点となります。海外でアンモニア発電がはやらない場合、将来的に技術輸出やライセンシングによって稼ぐことができません。一方、先進国が技術開発やサプライチェーン構築を進めた場合には、アジアなどの途上国において安価なアンモニアを将来的に活用できる可能性があります。

しかし、アンモニアが他国で導入されないなら、日本も導入しない、という考えになるべきではないと思います。水素専焼・混焼、アンモニア専焼・混焼のどちらが良いというわけでもありません。例えば現状、火力発電は石炭・石油・LNGを選択肢としてもつことで、電力の安定供給維持に寄与してきたと考えられます。同じ考えで、どちらも必要になるのではないかと思います。

参考文献

  1. 経済産業省 資源エネルギー庁 新エネルギーシステム課/水素・燃料電池戦略室, 今後の水素政策の課題と対応の方向性 中間整理(案), 2021
  2. K de Kleijne, et al., One Earch, DOI: j.oneear.2022.01.006.
  3. 経済産業省総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会, 2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討, 2020.
    原典は、https://www.globalccsinstitute.com/resources/global-status-report/
  4. Transition Zero, Coal-de-sac: Advanced Coal in Japan, 2022.

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