化石燃料から取り出せるエネルギー量は?
化石燃料がこれまでに多く使われてきた理由は、化石燃料がエネルギーを多く持つからでした(我々はなぜ「化石資源」を使ってきたのか?参照)。化石燃料がどの程度のエネルギーを持っているのかを、今回は見ていきます。
化石燃料が持っているエネルギーは「化学エネルギー」であり、化学結合として保存されています。ざっくりといえば、
- 化石燃料(メタンなど)に含まれる結合
- 化石燃料を燃やしてできる物質(二酸化炭素など)に含まれる結合
これらの差分をエネルギーとして取り出すことになります。
燃焼反応でエネルギーを取り出す!化学反応式で考える。
まず、化石資源は主に炭素、水素、酸素から成るので、それを一般式としてCXHYOZとあらわしてみます。そして、それを燃焼することでエネルギーを取り出すことを考えます(=火力発電)。その反応一般式は、以下のように書けます。
CXHYOZ + {(2x+y-z)/2} O2 --> xCO2 + yH2O …(1)
各分子がもっているエネルギーを概算するには、結合エネルギーを知る必要があります。(熱力学的に厳密に計算する方法もあります。今回はやりませんが…)その代表値を以下にまとめます。
C-C結合 = 347 [kJ mol-1]
C-H結合 = 410 [kJ mol-1]
H-O結合 = 460 [kJ mol-1]
O=O結合 = 494 [kJ mol-1]
C=O結合 = 799 [kJ mol-1]
※これらは代表値であり、厳密には個々の原子で違います。
では、代表的な分子を例にとって、実際のエネルギー量を見てみましょう!
例1:メタンCH4(天然ガスの主成分)
化学反応式:CH4 + 2 O2 --> CO2 + 2 H2O …(2)
この反応で、原料・生成物に含まれる結合の数を見てみます。
原料=C-H *4 + O=O *2
生成物=C=O *2 + H-O *4
以上の値を使って計算してみると、エネルギー = (799 * 2 + 460 * 4) - (410 * 4 + 494 * 2) = 810 [kJ mol-1]となります。例えばメタン 200 [g]が持つエネルギーは、約1万 [kJ] (= 810 [kJ mol-1] *(200 [g] / 16 [g mol-1]) と計算できますね。単位をジュールからカロリーに直すと、1 [cal] = 4.2 [J]なので、約2400 [kcal]となります。 ちなみに、これは人間が一日に必要とするエネルギー総量と近い値になります。
(性別=男性、年齢=18歳~29歳、身体活動レベル=II(ふつう)の場合、一日に必要な推定エネルギー必要量は2660 [kcal][1])
例2:ブタン(LPガスの主成分の一つ[2])
化学反応式:C4H10 + 13/2 O2 --> 4 CO2 + 5 H2O …(3)
この反応で、原料・生成物に含まれる結合の数を見てみます。
原料=C-C *3 + C-H *10 + O=O * (13/2)
生成物=C=O *8 + H-O *10
計算すると、エネルギー = (799 * 8 + 460 * 10) - (347 * 3 + 410 * 10 + 494 * 13/2) = 2640 [kJ mol-1]となります。
取り出せるエネルギー量の比較
メタンとブタンを比べると??
メタン CH4 = 810 [kJ mol-1]
ブタン C4H10 = 2640 ]kJ mol-1]
1 [mol]あたりのエネルギー量は、ブタンはメタンの約3倍も大きいです。
排出二酸化炭素当たりのエネルギー量はどうでしょうか?
式(2)によると、メタンは等量の二酸化炭素を排出しますが、ブタンは式(3)より4倍量の二酸化炭素を排出します。上記のエネルギー量を、単位二酸化炭素あたりに計算し直します:
メタン CH4 の単位二酸化炭素あたりのエネルギー量= 810 [kJ mol-1](= 810 [kJ mol-1] / 1)
ブタン C4H10の単位二酸化炭素当たりのエネルギー量= 660 [kJ mol-1](= 2640 [kJ mol-1] / 4)
よって、メタンの方が、あるエネルギーを取り出すときに必要な二酸化炭素の排出はブタンより小さいことが分かります。 これは、C-C結合とC-H結合のエネルギー差に起因しています。この点を踏まえると、二酸化炭素の排出を抑えるためには、天然ガスを使うべき、という論調へつながります(詳細は他のポストへ譲ります)。
参考文献
- 日本医師会 あなたの健康を応援する健康の森,"健康になる! 1日に必要なカロリー「推定エネルギー必要量」", https://www.med.or.jp/forest/health/eat/01.html (accessed on 2022/02/02)
- 一般社団法人 日本ガス協会, "都市ガスとLPガスの違い", https://www.gas.or.jp/chigai/ (accessed on 2022/02/22)