窒素の循環 -その3:窒素循環の具体量
アンモニアは人口を支える肥料の原料として、多く製造されています。人口は今後も増大を続け、また新たにエネルギーキャリアとしての用途もあることから、今後アンモニア製造量は増大し続けると考えられます。大気中の窒素を大量に固定した結果、今後地球はどうなるのか。窒素循環という観点から考察するシリーズ記事です。
第三弾の今回は、窒素の循環を定量的にみてみます。
窒素循環の乱れ
工業的なアンモニア合成法の確立により、人口は増大の一途をたどっています。その結果、前回のポスト(窒素の循環 -その1 その2)で述べた通り、窒素循環の乱れが生じてしまっています。例えば、1950年ころは5 [Tg(N) year-1]の窒素肥料が製造されていました。この数値は以降指数関数的に増大し、1990年頃には約80 [Tg(N) year-1]に達しています[1,2]。2000年には、人為起源による窒素固定量は200 [Tg(N) year-1](うち、半数強が肥料用途)を超え、これは地球上での自然固定量(陸上固定+海洋固定)に匹敵します[3]。人間による窒素固定量の急激な増大は、窒素循環を乱しました。窒素の循環サイクルを定量的にまとめたものが、次の図です。文献[4]を基に作成しています。
矢印横の数字は、年間あたりの窒素の固定量・脱窒量に対応し、単位は[Tg(N) year-1]です、ボックスおよび矢印の大きさは、実際の窒素量・流量に合致するように描画しています。この数値は、1994年の論文[4]で報告されている数値であることにご注意ください。
つまり90年代前半では、陸上で固定される窒素量は250、海洋で固定される量は30であり、合計で280の窒素が固定されることになります。一方で、脱窒されて循環する窒素量は、陸上からは130、海洋からは70であり、合計で200となります。この差分80 [Tg(N) year-1]が地球を循環していない窒素量となります。現在はより多量のアンモニアが製造されているので、これより多くの窒素が循環から外れていると考えられます。
このように、窒素固定に伴い土壌・海洋肥沃が進んでしまっています。大気中の窒素からグリーン・ブルーアンモニアを作ることで、さらに窒素固定が進むことになると考えられます。理想的には、その窒素は循環すると考えられます。しかし、循環から外れた窒素は、さらなる肥沃化を引き起こすと考えられます。
窒素固定量と人口
地球上の人口と、肥料用途の窒素固定量を見てみましょう。以下に、人口と窒素固定量の経年変化をまとめた図を示します。データ[3,5]を参考に作成しました。
人口と窒素固定量は、確かにはおおむね相関があることが分かります。より分かりやすくするために、人口を窒素固定量に対してプロットしてみます。
1960年から2000年のデータ(図中、窒素固定量・人口が多い領域)では非常に良い線形性が観測されました。
人口 = 2.83*107 *窒素固定量 + 2.88*109 (R2 = 0.96) …(1)
この線形性に基づいて、将来的に必要となる窒素固定量を算出します。
2030年: 人口=8.0*109 = 181 [Tg y−1]
2050年: 人口=9.8*109 = 245 [Tg y−1]
これだけの窒素が、肥料用途として今後も必要になると分かります。
従来は、窒素を固定化することで、アンモニアは製造されてきました。しかし、窒素循環を実現するためには、既に系内にある窒素を適切に回収・再資源化していくことが必要となります。つまり、窒素からアンモニアを製造するのではなく、排水などに含まれる硝酸イオンなどを還元処理し、アンモニアを製造するなどが有効となってくると思います。ただし、そういった窒素種は濃度が低いことが課題となります。例えば排水基準濃度は、500 [mg L-1]程度ですね。こうした低濃度の物質に回収して再資源化していくか。それを可能にする技術の開発が、将来的には必要でしょう。
参考文献
- V. Smil, The Earth as Transformed by Human Action, 1991.
- V. Smil, Phys. Today 1994, 24.
- J. Peñuelas, et al., Nat. Commun. 2013, 4, 2934.
- A.P. Kinzig, R.H. Socolow, Phys. Today 1994, 11, 24-31.
- Our World in Data, World Population Growth https://ourworldindata.org/ (accessed on 2021/03/18)