海外からのクリーンエネルギー輸送

これまでは化石資源などの1次エネルギーを使用してきました。しかし今後炭素中立を目指す上では、日本は化石資源以外のエネルギーを輸入する必要があり、その代表例は水素やアンモニアです。単純な海外からの「輸送」という点から見た時、こうしたクリーンエネルギーはどういった形態で運ぶのが良いかを、今回は見ていきます。

クリーンエネルギーのキャリア

まずクリーンエネルギーについておさらいしておきます。

再生可能エネルギーの主な利用形態は「発電」ですので、持続可能なエネルギーとして、我々は再エネ由来の電力を得ることができます。しかし、再生可能エネルギーの発電場所と発電時間帯は、我々のエネルギー需要と一致しません。ですから、何か他の形に電力を変換する必要が生じます。そこで用いられる物質は、エネルギーキャリアと称されます(再生可能エネルギーの利用にまつわる問題点参照)。

エネルギーキャリアとして適したものは、エネルギー密度が大きいものです。重量エネルギー密度が大きければ、より軽いもので多くのエネルギーを運べますし、体積エネルギー密度が大きければ、より小さいもので多くのエネルギーを運べます。電池は確立されたものがお送りあり一つの選択肢ですが、エネルギー密度はそこまで大きくありません(エネルギー貯めるいろんな方法を比較 -その3参照)。

一方で、重量エネルギー密度が高く魅力的な物質である水素は、体積エネルギー密度が小さいことが問題となります。この水素を、液化したり(エネルギー貯めるいろんな方法を比較 -その1参照)、他の物質へくっつけたり(エネルギー貯めるいろんな方法を比較 -その2参照)して、その体積エネルギー密度を小さくする方法がありました。そうして得られたもののエネルギー密度は高く、各種用途に適したものとなる可能性が高いです(エネルギー貯めるいろんな方法を比較 -その5参照)。

ちなみに日本では、再生可能エネルギーの潜在量を活用できれば、電力需要は賄えると計算できます(日本におけるエネルギー消費は、国内の再エネで賄えるか?参照)。しかし電気から他の形態へのエネルギー転換における損失を考慮すると、おそらく1次エネルギー消費量は賄えません。エネルギーセキュリティの観点からも、「海外から」クリーンエネルギーを持ってくることは必要です。

クリーンエネルギーの代表例として、今回は

  • 液化水素
  • アンモニア

を取り上げます。

クリーンエネルギーの輸送

前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。例えば海外のある国でクリーンな水素が、水と再生可能エネルギーから作られたとします。この水素の運び方として、今回の前提条件では以下の2つが挙げられます。

  • 水素を液化して日本へ輸送する
  • 水素をアンモニアへ転換し、日本へ輸送する

どちらが良いかは、運ぶ距離と運ぶ量に依存します。International Energy Agency(IEA)の試算によれば[1]、以下の図が描けます。

clean-energy-transport-cost-efficiency

※この文献では、図下部に示すように今後出版される文書が根拠として記載されています。発刊前なので確認は出来ていません。
※その発刊予定の文書情報は、次の通りです:Global hydrogen trade to meet the 1.5 °C climate goal: Part II – Technology review of hydrogen carriers, IRENA, Abu Dhabi.

日本が目指す水素導入量については、グリーン成長戦略[2]に以下の記載があります。

導入量は2030年に最大300万トン、2050年に2,000万トン程度を目指す。

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略[2]

1 [Mt] = 1,000,000 [t] = 100 [万t]ですので、つまり2030年に最大 3 [Mt]、2050年に最大20 [Mt]となります。図でカバーしきれていない量ですね。

図で、液化水素とアンモニアの境界はおおむね線形性があるので、ざっくり概算すると、3 [Mt]の場合10,000 [km]あたりが閾値でしょうか。つまり、10,000 km未満程度だと液化水素の方が経済性が高い一方で、それを上回ると、アンモニアにした方が良い、ということになります。

※なおこの距離は、3 [Mt]すべてを一か所から導入する場合の距離になるはずです。実際は分散すると思います。
※もちろん、この結論が正しいかは上図の導出過程を検証してみなければ分かりません。それは、当該文書が発刊されたのちに検証してみます。

ではこの10,000 kmというのはどこになるのか、それを次に見てみます。正距離包囲図法で、日本を中心に描いた図を以下に示します[3]

distances-from-japan

10,000 kmの閾値は、アフリカ、中南米に相当しますね。これらの地域からクリーン水素を輸送する場合には、アンモニアにした方が良く、これ以外の国、例えばオーストラリアやサウジアラビアから輸送する場合、液化水素の方が良い、ということでしょうか。

ただし実際には、一地域から全量を賄う訳ではないと思います。例えば、オーストラリア(日本から6,848 km)だと、閾値は2 Mtあたり、サウジアラビア(8,730 km)だと3 Mtあたりが閾値となるでしょうか。それぞれの地点ごとに導入量を見定めて、液化基地を作るのか、アンモニア合成基地を作るのかを決定する必要がありそうですね。

参考文献

  1. IRENA, Geopolitics of the Energy Transformation The Hydrogen Factor, 2022.
  2. 内閣官房 経済産業省 内閣府 金融庁 総務省 外務省 文部科学省 農林水産省 国土交通省 環境省, 2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略, 2021年6月策定.
  3. 教科の学習, "高校入試地理 地理1-6 正距方位図法 解説" https://www.toudounavi.com/2016/08/18/地理1-6-正距方位図法-解説/ (accessed on 2022/02/17)

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