発電のカーボンニュートラル化 -その1:コスト試算

日本では、電力需要の多くを火力発電で賄っています。火力発電の内訳としては、ガス火力と石炭火力が50%弱ずつを占め、数%程度が石油火力でした(日本におけるエネルギーの流れ参照)。これらの火力発電施設は多く二酸化炭素を排出し続けるため、炭素中立を実現する上ではそのまま使用し続けることが叶いません。事実、日本における二酸化炭素排出の約36%を事業用発電が占めています(日本における二酸化炭素 -排出量参照)。

では、再生可能エネルギー由来の発電(太陽光発電、洋上風力発電など)で火力発電を置き換えていけるかというと、ことは単純ではありません。たしかに潜在量としては、日本の電力需要を賄える量は存在するようです(日本におけるエネルギー消費は、国内の再エネで賄えるか?参照)。しかし、再生可能エネルギーには、需要・供給ミスマッチの問題や、送配電網における周波数の問題があります(再生可能エネルギーの利用にまつわる問題点参照)。

発電をカーボンニュートラル化していく一つのオプションは、再生可能エネルギーに蓄電設備を併用することです。水素や水素化物などのキャリアも用いられますし(エネルギー貯めるいろんな方法を比較 その1その2その3その4その5)、また大型電池を用いても良いですね。

もう一つのオプションは、火力発電設備を活かしながら、その燃料をカーボンニュートラル化する、というものです。今回は、カーボンニュートラルな火力発電燃料についてみていきます。

carbon-neutral-electricity

経済産業省によるカーボンニュートラル燃料コスト試算

現状、日本では2つのパターンが検討されています[1]

  • ガス火力発電の燃料を、水素に置き換える。
  • 石炭火力発電の燃料を、アンモニアに置き換える。

なぜ天然ガスに対して水素であり、石炭に対してアンモニアなのかという点については、燃焼速度の兼ね合いによるとされています[1]。アンモニアの燃焼速度は0.09 [m s-1]であり、これはメタンの0.37 やプロパンの0.43に比べて小さいですが、水素は、2.91とかなり高いです[1,2]

※少し調べてみても、石炭の燃焼速度は出てきませんでした。。(ご存知の方教えてください…)石炭の複合火力発電施設では、ガス化して生ずる水素等を燃やすのではないかとも思いますので[3,4]、少し理解できていない部分でもあります。
※グリーンイノベーション基金におけるアンモニアプロジェクトに対する意見書[5]の中で、"海外メーカーでは石炭火力ではなく,天然ガス火力に対してアンモニアを適用するニュースが散見される"とあります。

これら2つのパターンに対して、経産省はコスト予測をしています[5,6]

ブルー水素を使う場合

  • 海外水素製造11.5 [JPY Nm-3]
  • 水素輸入(ローリー輸送+液化+積荷+海上輸送)162 [JPY Nm-3]
  • 水素発電機 70,000 – 90,000 [JPY kW-1]

以上より、専焼の場合 97.3 [JPY kWh-1]、10%混焼の場合20.9 [JPY kWh-1]

アンモニアを使う場合

  • 海外水素製造11.5 [JPY Nm-3] (= 201 [USD t-1])
  • 海外アンモニア製造 4.3 [JPY Nm-3] (= 76 [USD t-1])
  • アンモニア輸入(積荷+海上輸送)2.3 JPY円 Nm-3] (= 2.3 [USD t-1])
  • アンモニア専焼設備 460,000 [JPY kW-1], アンモニア混焼設備 290,000 [JPY kW-1]

以上より、専焼の場合 23.5 [JPY kWh-1]、20%混焼の場合12.9 [JPY kWh-1]

両者を比較すると、アンモニア発電の方がコスト的に優位と考えられます。

TransitionZeroによるカーボンニュートラル燃料コスト試算

一方で、TransitionZero[7]によれば、アンモニア火力発電はそれほど安くはならないという試算が出ています。

具体的には、20%グレーアンモニアの混焼では150 [USDMWh-1]程度とされています。1 [USD] = 110 {JPY}として換算すると、16.5 [JPY kWh-1]となります。これはグレー水素の場合であるので、二酸化炭素貯蔵に係る金額を入れていませんが、それでも上記の12.9よりも高い金額となっています。なお20%グリーンアンモニアの場合、約210-290 [USD MWh-1]とされており、さらに高コストです。換算すると、23.1-31.9 [JPY kWh-1] に相当します。

※日本試算方法との差異は、資料からは読み取れませんでした。
アンモニア単位あたりの価格などがTransitionZeroの方で明記されていない(「資本コスト」とのみ記載がある)ため判断が難しいです。
発電量あたりでは、20%グレーアンモニアに対して、約25 [USD MWh-1]とはありました[8]
おそらく、カーボン税などに対する想定の違い等もあるのかもしれません。

TransitionZeroは、日本ではアンモニアを発電に使わないことを強く勧告しています[7]
その理由として、以下を挙げています:

  • (ブルーアンモニアの場合)日本では、二酸化炭素貯留場所が足りないこと
  • CO2排出量削減が見込めないこと
  • 代替として洋上風力の潜在ポテンシャルが大きく、また安く発電できるであろうこと

将来のコスト試算は不確実性をどうしても伴うので、「どの試算が正しいか」という結論は出ないと思います。確からしいものは、という考えは出来るかもしれませんが…。不確実性を考慮した上で、とりえるオプションを広く持っておくのが良いのでしょうか。割けるリソース(予算等)も限られているので、難しいところですね。

参考文献

  1. 経済産業省総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会, "2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討", 2020.
  2. エネルギー総合研究所, "水素拡散、燃焼基礎物性の研究について", 2008.
  3. 三菱重工技報 2015, 52, 23-29.
  4. 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO), "「ゼロエミッション石炭火力基盤技術開発/革新的ガス化技術に関する基盤研究事業/石炭ガス化発電用高水素濃度対応低NOX技術開発」事後評価報告書", 2014.
  5. 経済産業省, "「燃料アンモニアサプライチェーンの構築」プロジェクト" ご意見の概要及びご意見に対する考え方, 2021.
  6. 経済産業省 燃料アンモニア導入官民協議会, "中間とりまとめ", 2021.
  7. TransitionZero, Coal-de-sac: Advanced Coal in Japan, 2022.

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