水素価格の目標値

カーボンニュートラルの実現において、水素への期待は大きいです。これまでにも当サイトでまとめてきました。例えば、以下の記事ですね:
再生可能エネルギーの利用にまつわる問題点参照
・エネルギー貯めるいろんな方法を比較(その1その2その3その4その5)参照
・水素の作り方(その1その2その3)参照
・水素の使い方(その1)参照

今回は新たに、水素価格の現状と将来目標をまとめます。

現在の水素価格

従来、水素は化石資源から作られてきました。天然ガスや石炭から作るものは、1 [kg]あたり1 [USD]程度でした(水素の作り方 -その3:水の電気分解のコスト参照)。一方で、電気分解で作る水素は高く、国・場所にもよりますが5 [USD]程度です(水素の作り方 -その3:水の電気分解のコスト参照)。日本の場合、クリーン水素の市場価格は、現在1 [Nm3]あたり100 [JPY]とあります[1]

単位が異なるので、比較のために統一しておきます。今回の記事では、「Nm3あたりのJPY」に統一しておきます。標準状態では、モル体積は22.4 [L]なので、1 [kg]の水素は11.2 [Nm3]に相当します。
※(= 1 [kg] * 1,000 [g kg-1] / 2 [g mol-1] * 22.4 [L] /1000 [Nm3 L-1])
1 [USD] = 110 [JPY]とすると、以下の数値が得られます。

  • 化石資源由来の水素は 1 [USD kg-1] = 9.8 [JPY Nm-3]
  • 水電解由来の水素は 5 [USD kg-1] = 49 [JPY Nm-3]

上述した通り日本におけるクリーン水素の市場価格は 100 [JPY Nm-3]ですから、西欧諸国に比べて、日本では倍の値段になっていることがわかりますね。

将来の水素目標価格

将来的には、化石資源に依存せず、かつ温室効果ガスを排出しない水素を用いることが目標となっています。

クリーンな水素を産業で使う場合、安ければ安いほどもちろん良いです。以前に他の記事(水素の作り方 -その3:水の電気分解のコスト参照)でもまとめましたが、日本は水素価格の目標値を明示しています。再掲しておきます:

日本が2017年に打ち出した「水素基本戦略」では、2030年時点で、1 [Nm3]あたり30円[3]を目標として掲げています。そして将来的には20 円程度[3]を目標にしています。日本における現在の水素価格は、1 [Nm3]あたり100円程度[1]なので、挑戦的な目標です。

水素の作り方 -その3:水の電気分解のコスト

水素コストの低減に向けての施策・方策としては、再エネをつかった発電をどんどん安くしたり、水素の供給網を構築することで安くしたりするなどがあります。水素がどれほど安ければよいのか、つまりどれほど安ければ既存の燃料と競合できるかは、産業や用途によって異なります。そのパリティ価格を見てみます。

水素のパリティコストは、経済産業省の資料にまとめられています[2]。抜粋すると、以下の通りです:
・FCトラック;約約50 [円 Nm-3]
・内航船;23.3 [円 Nm-3]
・水素発電;14.3 [円 Nm-3]
・都市ガス(家庭用);45.0[円 Nm-3]
・都市ガス(商業用);23.5[円 Nm-3]
・都市ガス(工業用);15.1 [円 Nm-3]
・LPG(卸);29.4[円 Nm-3]
・LPG(小売り;家庭@東京):84.5[円 Nm-3]
・LNG(輸入価格);14.3[円 Nm-3]
・オレフィン製造;18.5 [円 Nm-3]
・水素還元製鉄;約8[円 Nm-3]
大きく差がありますね。

パリティコストを目標値と併せて、以下に図示します。※20 [JPY Nm-3]という究極目標値を、2050年の目標と置いて図示しています。

h2-parity-cost

なんと究極的に安くしても、既存のものをコスト負担なく置き換えることができない領域がありますね。化学産業(オレフィン製造)、発電(水素発電)、都市ガス、製鉄などです。

参考文献

  1. 経済産業省 資源エネルギー庁 新エネルギーシステム課/水素・燃料電池戦略室, “今後の水素政策の検討の進め方について”, 2020.
  2. 経済産業省 資源エネルギー庁 新エネルギーシステム課/水素・燃料電池戦略室, "今後の水素政策の課題と対応の方向性 中間整理(案)", 2021.
  3. 再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議, 水素基本戦略, 2017.

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